オランダと日本の働き方の違い③ 日本の問題点と解決策

世界トップレベルの労働生産性を誇るオランダ、一方の日本は先進国でも最低レベルである。その違いはなぜ起きるのか。原因と打開策についてオランダのベテラン経営コンサルタントに聞いてみた。

インタビューしたのはビジネス・コンサルタントのミヒル・ウィトカム(Michiel Witkam)さん。アムステルダムに本拠を置く多国籍企業フィリップスでプロジェクトリーダーとして14年間勤務。オランダの国営電話会社PTTに18年勤務の後、コンサルタント会社を設立。コンサルタント歴46年の74歳。働くことが一番の若さの秘訣だという。(インタビュー:2015年12月13日。通訳・中村崇士氏)

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オランダは同一労働・同一賃金のモデルとなる国でもある。80年代後半からフルタイムとパートタイムの差をなくして、パートタイムで働く女性比率も70%を越える。労働者の4分の3がパートタイマーであり、労働生産性は極めて高い。

私は、日本がどうすれば労働生産性を上げられるか、また女性を活用できるのか、ミヒル氏にアドバイスを求めた。以下は私とのやり取り。

<ひとつ目の革命は女性の社会進出>

オランダのパートタイマー革命は成功したのでしょうか?

「とてもうまくいっています。オランダの雇用には2つの革命がありました1つ目の革命は1980年代にスタートした女性の活用です。40年前はほとんどの女性が働いていませんでした。今は成人女性の60~70%が働いている。これはパートタイマー革命のおかげです。」

「たとえば秘書が必要な時は、いつも女性を2人雇います。午前と午後の担当としてシフトを組んでやっています。子育て主婦も働くことができる。それが改革の目的でした。」

「オランダには2つ目の革命がありました。男性がパートタイム労働を取るようになり、女性がフルタイム労働をするようになるという逆転現象です。女性の方が勤勉で大卒者が増えていきました。女性は真面目に大学に通い資格を取るようになり社会を支えるようになったのです。」

どうすれば日本は女性を活用できるようになるのでしょうか?

「もし私が日本にアドバイスするとすれば、まず出席する、出席しないことを重要視しないことだと思います。つまり、いてもいなくてもいい。でも生産性を上げるようにすることが大事だと思います。」

<オランダが生産性世界一の理由>

「オランダは短く働いて、最も効率よく仕事をすることでは世界一です。休暇は多いし、午後5時には帰ります。でも、1時間当りの効率の良さでは一番です。」

ドイツも日本の1.5倍の労働生産性と言われていますが、それよりも高い?

「ドイツよりもオランダ人は英語が話せる人が多く生産性も高いです。国際的な貿易においてオランダ人のほうが勝っています。」

<日本はどのように改革すればいいのか>

日本が生産性を上げるためのアドバイスをお願いします。

「男性と女性の差が大きいことが日本の最大の問題点です。それを無くせば多くの問題が解決できると思います。」

「オランダで女性が社会進出できた理由について話します。科学的なデータではなくあくまで個人意見です。ひとつはキリスト教の信仰者が減ったことがあると思います。信仰者が減るに従って女性への偏見が減って女性の地位が向上していきました。日本も同じように儒教思想の影響で女性への偏見があるのではないでしょうか。男性は家長で、女性はそのサポートをするのが役目という文化的背景があると思います。文化の問題です。」

もしかすると女性の方が生産性は高いのではないでしょうか?

「全くその通りです。オランダでは女性のほうが高い。特に事務職においては生産性が高いです。保障つきです。女性はとてもきっちり働く。とても責任感が強いです。」

オランダが生産性で世界一である最も大きな要因とは何でしょうか?

「これも科学的な根拠でなく個人的な意見として言います。まずオランダ人のダイレクトさ。礼儀正しさに重きを置かない。すごく直接的で率直にものを言います。ある意味では悪意を与えるぐらいに、すぐにイエスと言わない。何かを頼まれたら『なぜ』と聞く。感情的にならずに、いつも理由を尋ねる。ちょっと冷めた感じがあるのがオランダ人の特徴です。」

では、オランダ人は納得できないことはしないということでしょうか?

「命令は聞ききますが、納得してもらえなければ生産性は著しく落ちます。上司としての対処法は、まずは説得して納得できるような理由をさがすことです。マネジャーが指示命令しても、納得できなければ生産性が落ちるのは目に見えています。納得させるのがマネジャーの仕事です。」

前回のアデコさんでも聞きましたが、オランダでは1週間の仕事内容が決まれば、時間配分を自分で決める権限があることも強いのではないでしょうか?

「その通りです。それがオランダの生産性の高さの秘訣です。時間や仕事の自由さ。時間内で自分の仕事をある程度自分で決めることができるから生産性高い。」

「もちろん仕事にもよります。時間の規則がある職場は別ですが、営業職などは生産性が上がると思います。」

オランダでは週の労働時間を希望によって変更できるのでしょうか?

「もちろん希望によって変更できます。今日は短く働いた分、翌日に長く働くことができます。その調整はどこでもできます。ちなみにオランダは週36時間労働が上限です。(昼休憩は含まれない)」

<中小企業でも生産性が上げられるのか>

日本の99%は中小企業です。大企業は週40時間労働ですが、中小企業は全体的に長時間労働です。オランダの中小企業は本当に遵守できていますか?

「とても例外的に長時間労働は起こりえます。オランダにも悪質企業はあります。でも、ほとんどありません。非常にまれです。ただ、個人事業で働く人や、飲食店や職人はとても長く働いています。」

なぜ中小企業が短い労働時間を守れるのでしょうか?

「小さな企業の経営者にも労働組合がありますが、末端の労働者には組合はないです。しかし法律でガチッと決められている。皆さん8時間以上働きません。違反すると大きな罰金もあるのです。」

「日本では監査の問題があると思います。もしかすると労働監査が弱いのではないでしょうか。オランダの労働監査は非常に厳しいです。労働者と雇用者が議論すると100%問題になり監査が入ります。」

週36時間労働で本当に利益を出して存続できるのでしょうか?

「オランダでは平均的な多くの企業が問題なく存続しています。仕事の質に関係しています。量よりも質です。」

しかし、急に労働時間を短くしたらつぶれる不安があるのでは?

「ある程度の限度はあると思いますが、時間を短くすれば効率は確実に上がります。」

では、日本の労働時間を短くする方法とはどんなことでしょうか?

「まず、働く人の貢献度を見える化することが大事です。紙に書いて皆にわかるように発表します。また、仕事を数値化することもいいでしょう。」

「上司の責任において働くのではなく、グループ責任制にすることも有効です。その上司を含めたグループとしての貢献度を測るのです。」

自分で会社を立ち上げた人の多くは生産性を上げる方法は知りません。どんな方法で課題をクリアしているのでしょうか?

「オランダでは商工会議所が大きな役割を果たしています。起業家1年生は商工会議所のコーチが指導します。ボランティアのコーチがいるのです。私もボランティアとして21社のコーチをしてきました。」

では、起業家ではなく、会社のマネジャーはどうすればいいでしょうか?

「大きな企業には教育機関が必ずある。小さな企業は連合体の教育機関があります。専門学校との連携も強いです。社員を学校へ送って夜間教室で勉強させることも多くあります。」

日本での社員教育や勉強では、精神論的な勉強(経営理念・自己啓発)が多いのですが、オランダではどのような内容を学ぶのでしょうか?

「オランダではすべての学問が、非常に現場に即して実務的な内容になっています。精神論的な内容はゼロです。」

個人の時間管理やシフト作りはノウハウがあるのでしょうか?

「ドイツは時間管理やシフト管理の最高峰です。学校と会社が完全に連携している。働く人は夕方には学校に通って、必要な技能を学ぶことができます。オランダもそうですが、社会の成り立ちとして学校と職場との隔たりなく、仕事に必要な職能を磨くことができるのです。」

インタビューは以上である。ミヒル氏のメッセージは、深い洞察に基づく真理ではないかと感じる貴重なものだった。改めて感謝したい。

日本の問題点は、国が違えどもオランダと同じ取り組みをすることが一番の成功の近道だと思われた。男女の差をなくすこと。つまり、労働時間差別と性差別をなくすことである。

しかし事は簡単ではないだろう。ミヒル氏は方法論の問題ではなく、偏見や文化的な背景が影響していると言う。

林俊範先生も同じことを言われていた。私がなぜ日本の企業では女性が活用されないのか質問した時の答えは至ってシンプルだった。「そう思っていないから」

日本の企業が女性という人財を十分に活用しきれていない一番の理由は、ただ単純にそう思っていないからだという。女性に実力や能力があっても、登用されない理由は男性に女性を評価する力がないこと。女性も時間の制約などで、残業ができない、休日出勤ができないなど弱い立場があることも原因だと言われた。

日本も女性を活用しようと思わなくても、オランダのように労働時間を厳しく制限すれば、自然と女性の活躍の場が広がっていくのではないだろうか。

中園 徹