林俊範先生に初めて会った時に教えられたこと

起業してから、マクドナルドの仕組みを参考にしようと思う人はどれぐらいいるだろうか。

32歳の時に脱サラで整骨院を開業した私は、7年間に渡って我流で経営し、人の問題で苦しみ続けた。その後、日本マクドナルドの仕組みを作られた林俊範先生と出会い、人生が大きく変化した。

苦しんだ人の問題とは、従業員の給与の決め方、仕事の教え方、人の採用から離職の防止に至るまでを指す。すべてを創意工夫し、7年も努力を尽くしてみたが一向に上手くいかなかった。

何か解決のヒントが得られるのではないかと思い、私は日経流通新聞(日経MJ新聞)を読むようになっていた。2001年「日本マクドナルドの仕組みを作った元統括スーパーバイザー林俊範のピープル・ビジネス・スクール」の記事を見つけた。「これだ!ここに行けば問題が解決できるかもしれない」と思った。

マクドナルドには特別な興味もなかったが、何百という店舗数を誇るのだから人の問題を解決する仕組みがあるに違いないと確信した。藁にもすがる思いでピープル・ビジネス・スクールに電話をしてみると、感じの良い女性スタッフが出た。前に一度、飲食店系のセミナーへの参加を断られていた私は「整骨院なのですがセミナーに参加することはできますか」と聞いてみた。すると「業種・業態は関係ありませんので、是非いらして下さい」と爽やかに言ってくれた。あの時の喜びは未だに忘れない。

異業種が参加する勉強会にはあまり出たことがなかった。緊張しながら東京の赤坂陽光ホテルに向かった。2階のセミナールームには50名前後のビジネスマンが来ており、教室の前の方で林先生の講義を聞いた。

 

まずそこで衝撃を受けたのがキャリアパスプランだった。クルーと呼ばれるパート・アルバイトは、ランク毎に仕事の内容と時給が決められており、何をすれば時給がアップするかが明確になっていた。「これだ!これがあればスタッフの時給や仕事の内容での揉め事が解決できる」と確信した。

1日目の講義が終わると、1階の宴会場でバンケットという異業種交流会が開催された。円卓が五つほどあり、セミナーに参加した人たちがそれぞれスピーチをすることになっていた。セミナーの参加者には上場企業の社員や大手飲食店チェーンの幹部の人達もいて、その中でのスピーチに私は非常に緊張した。何を言ったか覚えていないが、探し求めていたものを見つけた喜びを語ったと記憶している。

バンケットの終わりがけ、知り合った先輩経営者の方と話をしていると、林俊範先生が私の横に来られた。この後ちょっと食事に行きましょうと誘われた。先輩経営者の方と三人で食事をすることになった。なぜ私を誘ってくださったのか全く分からない。偶然かと思ったが、先輩経営者は「偶然ではありませんよ」と言われたのが印象的だった。

その後、ビルの地下にある割烹料理屋さんに連れて行っていただいた。座敷に通されて、しばらくすると女将が出てきて、私に名刺を出してきた。私は緊張して名刺を出すべきか迷っていたが、ついに名刺を出す機会を失ってしまった。

食事を終えて店を出て階段を上がる時に、林先生が私に言われた「あんな時は名刺を出すもんですよ」と。「ハ、ハイ・・」。私は(しまった!やっぱり名刺を出しとけばよかった)と深く後悔した。

その後も別のお店に行って飲むことになったが、 林先生は私に対して営業めいたことは一切言われなかった。それよりも、とことん飲まれる林先生を見て驚いた。林先生はマクドナルドのアメリカ駐在時代には、仕事のやり方から酒の飲み方までをアメリカ人にマンツーマンで教わったと言う。「朝まで飲むんだよ」と。

あっという間のセミナー二日間が終わり、私は整骨院にマクドナルドの仕組みを入れたいと強く思った。それは単に店を増やすというだけの問題ではなく、人の問題が全て解決できるという確信を得たからだ。

二日間のセミナーで知ったこと。マクドナルドという企業は、単なる飲食店チェーンではなく、アメリカにおいて学生や女性、移民など、まだ仕事をしたことがない人たちをトレーニングして戦力化できる強みを持っているということだった。

林先生自身も、アメリカ駐在時代には、ベトナムから漂流してきた英語も話せないボートピープルの男性を採用している。地面を指さして、ここで働かせてくれと懇願する彼を採用し、一年間でパート・アルバイト店長に育成したという。日本の中で、日本語が話せない亡命してきた外国人を採用して、育てることができる企業はどれぐらいあるだろうか。

マクドナルドという企業の素晴らしさは、働いたことがない社会の底辺の人達にも、仕事のイロハを教え、職業訓練して自立させる点にある。キャリアパスプランにおいて、入社したてのトレーニーが最初に教わることは、「アピアランス(身だしなみ)」と「アイコンタクトとスマイル」だ。お客様サービスにおいて最も大切で基本的なことを、最初に教えることになっている。

謙遜ではなく、私自身もトレーニーと同じだなと思った。起業して7年、経営者として誰からも注意されることはなかった。しかも多少自由になるお金もできた。しかし、ビジネスにおいて本当に大事なことは何も学んでいなかったのかと思った。

林俊範先生に出会って私がはじめに教わったことは、高度な経営の仕組みなどではなく、正しい名刺の出し方だった。

ピープル・ビジネス・スクール 中園 徹