名著に学ぶスモールビジネス「はじめの一歩を踏み出そう」

起業家が経験する「失敗の原因」と「成功へのカギ」を説く世界的ベストセラー

日本で起業するスモールビジネスの生存率は、3年後で50%、5年後は40%と言われている(経済産業省データ)。起業家の失敗原因は何なのか。どうすれば生き残れるのか。

参考となる本が「はじめの一歩を踏み出そう(マイケル・E・ガーバー著)」だ。本書には解決策と成功ノウハウが書かれている。世界20カ国語で翻訳され100万部以上の実績を持つ全米ベストセラーのビジネス書である。

「はじめの一歩を踏み出そう―成功する人たちの起業術」(マイケル・E・ガーバー【著】/原田 喜浩【訳】世界文化社)

僕自身も起業から本書にある通りの失敗を繰り返した。起業9年目(2003年)に本書に出会った。著者マイケル・ガーバー氏は、マクドナルドのフランチャイズに学べと述べている。

僕が本書をある経営者の方から頂いたのは、マクドナルドの仕組みを学ぶ林俊範先生の勉強会だった。今年で起業して28年になるが、もっと早く本書を読んでいれば、苦労して遠回りせずに済んだかもしれない。本書で学びになったところをまとめてみた。起業して悩んでいる方の参考になれば嬉しい。

PARTⅠ 失敗の原因を知る

誰もが必ず陥るワナ

「自分をその道のプロだと自負している人が起業を考えるときに、必ずといってもよいほど陥るワナである。 致命的な仮定とは・・・・・『事業の中心となる専門的な能力があれば、事業を経営する能力は十分に備わっている』ということである。」(22頁)

「事業の中で専門的な仕事をこなすことと、その能力を生かして事業を経営することは、全く別の問題である。」(22頁)

「いざ起業してみると、帳簿をつけたり、人を雇ったりと、これまでに経験がないような仕事が次々とわき出してくる。たいていの起業家は、予想もしなかった仕事に追われて、本業に手が回らなくなってしまうのである。」(23頁)

ガーバー氏の言う「誰もが必ず陥るワナ」には僕もすっぽりとはまった。整骨院を開業するためには十分な治療技術さえあればうまくいくと思い込んでいた。受付のパートさんを雇うことや金銭管理は、そんなに難しいことではないと思っていた。勤めている時には全く考えもしなかった。だが、いざ自分でやるとなると難しさで、心身ともに疲労困憊してしまった。

今は思う。起業するならまず、「人の雇い方」「仕事の教え方」そして「会計管理」を学ぶべきだと。

 

「起業家」「マネジャー」「職人」―3つの人格

「スモールビジネスの経営者の内側では、『起業家』『マネジャー』『職人』という三つの人格の争いが起きている」 (31頁)

「起業家とは、 ささいなことにも大きなチャンスを見つける才能をもった人である。(中略)将来のビジョンをもち、周囲の人たちを巻き込みながら、変化を引き起こそうとする人物こそが起業家である。」 (31頁)

「起業家は革新者であり、偉大な戦略家である。(中略)起業家を代表する人物としては、(中略)マクドナルドのレイ・クロックを上げることができる。」(31頁)

「起業家にも弱点はある。新しいものに取り組むことが得意でも、きっちりと『管理』することが苦手なのだ。」 (32頁)

「マネジャーとは管理が得意な実務家である。マネジャーがいなければ。計画さえ立てられずに、事業はたちまち大混乱に陥ってしまう。」 (33頁)

「職人とは、自分の手を動かすことが大好きな人間である。『きちんとやりたければ、人に任せず自分でやりなさい』これが職人の信条である。」 (34頁)

「私たちの誰もが、起業家とマネジャーと職人という三つの人格をあわせもっている。そして三つのバランスがとれたときに、驚くような能力を発揮するのである。」(36頁)

「典型的なスモールビジネスの経営者は、一〇%が起業家タイプで、二〇%がマネジャータイプで、七〇%が職人タイプである。」 (36頁)

「職人は決して主導権を持つべきではないのだ!」(37頁)

ガーバー氏の指摘通り、職人タイプの経営者は多い。脱サラして整骨院を開業した僕は、よき職人を目指していた。「腕を磨けば成功する!」が業界常識であり、皆が一流の職人を目指していた。

忙しくても貴重な患者さんをスタッフに任せることが怖くてできなかった。思い切って任せても、気になって仕方がない。何か気に入らない。借金を背負っている起業家が、貴重お客様をはじめから従業員に丸投げすることは難しい。体力があるうちはいいのだが・・だんだんきつくなっていく。

経営者になると色んなことが起こり、生き残るために3つの人格の変容を迫られる。自分を変えることができなければ先に進めない厳しさをはじめて知った。

 

幼年期 ―職人の時代 

「すべての仕事をこなす職人的経営者」 (43頁)

「独立した当初は、何も考える必要はない。職人として仕事をこなすことにかけては、あなたはベテランだ。(中略)こうやって、一日に十時間、十二時間、十四時間、そして一日も休むことなく一週間働くようになる。」 (43頁)

「事業の幼年期を見分けるのは簡単である。なぜなら、オーナー=事業なのだから。」

「もし幼年期の事業からオーナーがいなくなれば、何も残らず、事業そのものが消滅してしまう! 」(44頁)

「 その問題はだんだんと明らかになってくる。ついに仕事量があなたの限界を超えるようになったのだ。 いくら頑張っても仕事量に追いつかなくなってきた(中略)こうなってしまうと、顧客のために働こうという気持ちは薄れてくる。」(45頁)

開業した幼年期の僕も3年間休みなく走った。体力には自信はあったが、やがて限界を迎え、気が付くと体重は十キロも減っていた。疲労困憊しながらも、毎週末に京都まで勉強をかねて指圧治療を受けていたが、いつもいびきをかいて寝てしまう。指圧の先生から「仕事に殺されなさんなよ」と言われる始末。先輩経営者のアドバイスで、水曜日の午後を休みにして難を逃れた。

夢だった開業ではあったが「こんなことを一生続けていくのか」と愕然とした。周りでも、頑張りすぎて店を閉める飲食店経営者や、無理して体が動かなくなり、長期休業する整骨院経営者を何人も見てきた。「職人的経営者」は、業種に限らず、誰もが陥る。自分の限界を知り、人を雇うべきことにやっと気づく。

 

青年期―人手が足りない!

「事業の青年期は人手が必要だと感じたときから始まる。 起業から何年後に青年期が始まるといった決まりはないが、処理能力を超えるような仕事を抱え込むようになったころからである。」 (53頁)

「事業とは成長するべきであるという考えにしたがうなら、すべての事業は、いずれは『手ごろなサイズ』を超えて成長する運命にある。『手ごろなサイズ』とは、経営者が事業をうまくコントロールできるかどうかの境目といえるだろう。」 (62頁)

『手ごろなサイズ』を超えて事業が拡大するにしたがって、会社内部の混乱は加速しはじめる。それに対する解決方法は三通りに分けられる。一つ目は幼年期に戻ること。二つ目は倒産に追い込まれること、そして三つ目は歯を食いしばってもこれまでのペースで頑張ることである。」( 63頁)

「事業を縮小することが、混乱から抜け出すのに一番簡単な方法なのである。」

「こうしてあなたは、オーナー兼経営者兼シェフ件洗い物係という立場に戻った。」( 64頁)

「どんな事業にも選択肢は成長するか、縮小するかの二つしかない。」 (76頁)

おかげさまで僕の整骨院は2年目ぐらいから軌道に乗り始めた。患者さんの増加に伴い、スタッフ(研修生)も増やした。しかし驚くほどの勢いで入った人が辞めていく。毎月3~5万円かけて求人誌掲載するも、入った人の半分が辞めていく。起業した経営者は、一日何時間働いても平気だが、同じことを従業員に強要するとたちまち辞めていく。そのことに気が付くのには5年かかった。

昔のような徒弟制度は、組織作りには通用しないのだ。業界にも、一時期は多くのスタッフ(弟子)を使い、大いに繁盛していた整骨院が、数年経つと院長たった一人になって、衰退していく事例も珍しくなかった。低賃金の丁稚(研修生)に頼るのではなく、給与を払って従業員を雇用しなければと痛感させられた。

 

成熟期―商品よりも重要な起業家の視点

「成熟期は、企業の成長における第三段階にあたる。このレベルにある会社の例としては、マクドナルド、フェデラルエキスプレス、ウォルト・ディズニーなどの優良企業があげられる。(中略)

ここにあげたような企業では、スモールビジネスのころから成熟期の企業のような方法で経営されていた。」(82頁)

「重要なのは、商品やサービス自体ではなく、起業家の視点を持って経営することであり、優れたビジネスモデルを作ることなのである。」(85頁)

「起業家は『事業が成功するにはどうするべきか?』を考え、職人は『何の仕事をするべきか?』を考えている。」(85頁)

「起業したてのスモールビジネスに仕組みは必要ない。」と僕は考えていた。しかし、本書の通り「スモールの頃から成熟期の企業のような方法」が必要となる。問題はその具体的な方法がわからないことだ。経営に悩んだ僕は名経営者の本ばかり読んでいた。崇高な「経営理念」をまねして作り、毎朝スタッフにも唱和させていた。でも、大した理念もない僕が、名経営者の真似事をしても良い結果が出るはずもない。

その後、幸運にも林俊範先生に出会い「スモールだからこそマクドナルドのように仕組みで経営するんです」と教わった。「崇高な理念は、仕組みを作ったあとでいい」とも。

確かに成功者の人格はまねできないが、仕組みであれば多少はまねすることはできる。仕組みを少しずつやってみると、問題も少しずつ解決するようになった。後になって知ったことだが、名経営者たちは崇高な経営理念と同時に、実はちゃんとした仕組みも同時に確立しているのだった。

 

PARTⅡ 成功へのカギ 

フランチャイズに学ぶ「事業のパッケージ化」という考え方

「『事業のパッケージ化』をひとことで言えば、収益を生み出す事業を定型化して、パッケージにしてしまおう、ということだ。このパッケージさえ上手に活用すれば、倒産寸前のスモールビジネスが息を吹き返すばかりでなく、成長さえ始めるようになる。」(94頁)

「これは私の考えだが、このアイデアの生みの親はマクドナルドであり、マクドナルドがあれだけの成功をおさめたのは、この戦略のおかげだと思っている。」(94頁)

「この店こそが、マクドナルド兄弟が経営するハンバーガーショップであり、五十二歳のセールスマンが後にマクドナルドの育ての親となったレイ・クロックだった。」(94頁)

「マクドナルド兄弟の店では、とても効率的かつ品質のばらつきが少ない方法でハンバーガーが作られていた。(中略)特に彼が感心したのは、誰でもハンバーガーがつくれるような仕組みが整っていることだった。」(95頁)

「レイ・クロックは、『何を売るか』ではなく、『どのように売るか』に注目した。つまり売るための仕組みにこそ価値があると考えたのである。」(98頁)

「マクドナルド兄弟の店でレイ・クロックが理解したことは、ハンバーガーが彼らの商品ではないということだった。マクドナルドという店自体が彼らの商品だった。つまり、事業の本当の商品とは事業そのものなのだ。 この発想の転換が『事業のパッケージ化』の原点になった。」(98頁)

「レイ・クロックは、誰が始めても失敗しないような事業モデルをつくることにも精力を注いだ。」 (100頁)

僕は「マクドナルド」や「フランチャイズ」に良い印象はもっていなかった。パートアルバイトで回すハンバーガーチェーンには何の興味もなかった。でも、起業して従業員を初めて雇った時に難しさを痛感した。「仕事のばらつきでクレームが続く」「仕事を教える方法がわからない」「給与が決められない」「急に休んだら、どう対処すればいいのか」等々。そんな経験をしてはじめて「マクドナルドなら何らかの解決策を知っているだろう」と考えるようになった。

ガーバー氏の言うように、マクドナルド創業者のレイ・クロックは、誰でも店の問題を解決できる仕組みを事業パッケージにしたことで成功している。クロックは、マクドナルドで起業したフランチャイジーが、必ず直面する問題点を見抜いて仕組みを作っていたのだ。

僕は悩み苦しんでいる時に、幸運にもマクドナルド流の「事業パッケージ」の作り方を学ぶことになった。驚いたことにマクドナルドでは、人材の採用から育成はもちろん、売上や利益の出し方まで、すべてが完璧な仕組みとして体系化されているのだった。

「世の中にはこんな仕組みがあったのか」と思った。本書の「倒産寸前のスモールビジネスが息を吹き返す」のように、呼吸がしやすくなったような気がした。

 

成功率が高い秘訣とは

「レイ・クロックは最高に収益の上がる仕組みをつくろうとした。」(103頁)

「創業後一年以内に、普通の会社の四〇%が廃業しているのとは対照的に、フランチャイズの九五%が成功を収めた。そして最初の五年間で普通の会社の八〇%が廃業しているのに対して、フランチャイズ七五%が成功を収めているのである! 」(105頁)

「フランチャイズビジネスがこれほどまでに成功をおさめた秘訣は、商品を販売する前に試作モデルをつくるように、事業にも試作モデルをつくるという考え方を取り入れたからである。」(105頁)

「マクドナルドではモデル店舗を使って、あらゆる問題への対処方法が検討された。そして、個人の能力に依存しなくても、すべてがうまくいくような仕組みがつくられたのである。」(106頁)

林先生は仕組みを解説するときに「フランチャイズシステム」という言葉を口にした。僕は正直、フランチャイズというものに良いイメージを持っていなかった。本部だけが儲かって、フランチャイズ加盟者は、過重労働をして争いが絶えないというイメージ。しかし、林先生から教わったフランチャイズシステムは違っていた。加盟者を先に成功させる、レイ・クロックの考え方そのものだった。

本書では、企業の5年生存率が20%に対して、フランチャイズは75%の生存率と書かれている。マクドナルドのフランチャイズの生存率はさらに高いのではないだろうか。

一方の日本ではどうか。中小企業庁のデータでは、中小企業の5年生存率40%。ベンチャー企業になると創業からの5年生存率は15%と言われている。10年後は6.3%だ。廃業の理由は様々でも、共通することは「人材の問題」である。

どんなにいい商売であっても、起業家ひとりに頼るビジネスの存続は難しい。僕も起業して、一人ではビジネスが成り立たないことを痛感させられた。逆に言えば、儲かる商売を人に任せることができれば成功できるのだ。レイ・クロックは、「ピープルビジネス」にこだわり、仕事を任せて人財を育てる仕組みを確立した。「世界で最も成功を収めたスモールビジネス」となった最大の理由だろう。

 

教育機関をつくる

「また彼は、ハンバーガー大学と呼ばれる教育機関をつくり、フランチャイジーが最初からうまく経営できるようなサポートを行った。 ここでは、ハンバーガーをつくる方法ではなく、顧客を必ず満足させるシステムを運営する方法を教えている。 このような仕組みをつくったことが、マクドナルドが成功を納める基礎となったのである。」 (107頁)

「レイ・クロックが四十年前につくった決まりごとは、いまだにマクドナルドのシステムの中核として、すべての店で徹底されているのである。」 (107頁)

「一度システムを学んだら、もう事業を成功させるためのノウハウが詰め込まれたパッケージを手に入れたようなものである。」(107頁)

レイ・クロックは社内教育機関に全精力を傾けていた。日本マクドナルドもひとつのフランチャイジー(加盟店)である。アメリカのハンバーガー大学に、日本人として初めて派遣されたのが林俊範先生だった。日本マクドナルドは1971年の創業時、銀座一号店を出す前に社内教育機関「ハンバーガー大学」を作っている。

ユニバシティで最初に教えるのが顧客を満足させるための考え方「Q.S.C」(品質・サービス・清潔さ)となる。日本マクドナルドも、過去に何度か経営危機に陥っている。そのたびにレイ・クロックが1950年代に作った「Q.S.C」(品質・サービス・清潔さ)に基づいて現場を見直し、危機を脱する企業文化が今も存続している。

僕が林先生に教わったことは「最初にユニバシティ(社内大学)を作りなさい」ということだった。「起業したての小さな会社が、教室なんて持つ余裕はない」と僕は心の中で思っていた。しかし、林先生はそのことを見抜かれていた。「ユニバシティを作るために、車を売る。マンションを出る。そして倉庫の片隅でもいいので教室を作りなさい」と言われた。林先生が「経営理念は心がけではなく、具体的な行動やシステムで伝えていく」という意味が僕にも理解できるようになった。

 

事業の試作モデルで、自分の夢を形にする。

「そこであなたは疑問を持つことになる。」

「どうやって自分の事業の試作モデルを作るのか?」

「どうやってそれを成功させるのか?」

「どうやってマクドナルドのように、簡単かつ安定的に利益を上げる事業を作るのか?」

「どうやって他人に任せても、うまくいくような仕組みを作るのか?」 (109頁)

「なぜなら、他人に任せることができないかぎり、あなたは自分が始めた事業の奴隷になってしまうからである。 逆にいえば、これを解決するようなアイデアさえ思いつけば、あなたにも自由と成功の道が開けることになる。」 (110頁)

「彼女の事業にも、レイ・クロックの方法は応用できる。あとはその方法を学ぶだけだ!」(110頁)

多くの起業家はガーバー氏が言うように「他人に任せる仕組み」がないために挫折する。レイ・クロックは、西海岸にあったマクドナルド兄弟の繁盛店舗を、完全コピーして東海岸に作り、同じように繁盛させた。クロックは「成功はコピーできる」ことを証明し、成功モデルの運営を人にトレーニング(訓練)して店を全世界に増やした。

林先生から教わった、マクドナルドのフランチャイズの特徴は、ハンバーガーの調理法だけを教えるのではない。顧客満足を高める方法、人の採用から育成、経費コントロールによる利益確保まで、すべての業務を、人に任せる「権限委譲システム」だった。

マクドナルドの全業務は、7年から11年の実験・検証により、誰でも必ず結果が出るようなプロセスが導きだされているとのことだった。人に仕事を任せるプロセスは、飲食業ではない整骨院業種でも十分に応用することができた。

 

自分がいなくてもうまくいく仕組み (111頁)

「言い換えれば、フランチャイズビジネスの真似をしてほしいのである(私は真似をするようにと言っているだけである。フランチャイズを始めるべきだとは言っていない。)後略」(112頁)

「そもそも価値とは何だろうか?」 (113頁)

「ある事業が成功を収めているなら、それは提供するべき価値とは何なのかをきっちりと理解しているからである。」 (113頁)

「従業員の仕事内容はすべてマニュアルに記載されている。」 (118頁)

「マニュアルなしには、事業の試作モデルを試作モデルと呼ぶことはできない。」 (118頁)

「理容師が嫌いなわけでもない。彼は愛想もよくて、腕前も十分だ。しかし、もっと大切なことがあるのだ。それは、毎回のサービスに一貫性がなかったということである。」 (120頁)

「商品・サービスの質が高いことも大切だが、それ以上にいつも同じ商品・サービスを提供し続けることの方がずっと重要なのだ。」 (121頁)

ガーバー氏はフランチャイズやチェーン店を推奨しているのではない。たとえ1店舗のスモールビジネスであっても、はじめからフランチャイズビジネスのような、仕組みを作ることが大切だと言っている。林先生も全く同じことを言われていた。

職人気質の個人店とフランチャイズチェーンの経営は、全く別物だと僕は思っていた。しかし、それは間違いだった。個人経営の床屋さんでも、毎回微妙にカットが違うことはよくある。整骨院の治療でも、施術者が同じなら、毎回満足度が一緒かというと違う。施術をする人が同じでも、体調や感情によって、サービス内容も微妙に変化する。

整骨院業界では、「マニュアル化」や「標準化」という言葉を毛嫌いする職人的な経営者は多かった。しかし、ガーバー氏の言う通り、個人経営のスモールビジネスでも提供するサービスの一貫性は重要であり、「標準化」は必須条件である。 床屋さんでも治療家でも料理人でも同じだろう。

誰かに仕事を任せるなら、専門的な技術であってもマニュアル化は必要だと思った。 マニュアル作りの最大のポイントは、「正しいプロセス」を導き出すことだと林先生から教わった。 レイ・クロックは「何事も分解すれば難しくない」との考え方ですべてをマニュアル化した。

 

PARTⅢ 成功するための7つのステップ

「イノベーション(革新)」「数値化」「マニュアル化」

「事業発展プログラムとは、事業の試作モデルを完成させるための考え方をまとめたものである。 (中略)その基本には『イノベーション(革新)』『数値化』『マニュアル化』という三つのルールがある。」 (130頁)

「ほとんどのスモールビジネスの経営者は、数値化することの重要性を知っていながらも。 実践していない。」 (137頁)

「イノベーションを起こすことに成功し、事業へのインパクトを数値化できたのなら、次は『マニュアル化』を行うことになる。」 (138頁)

「『イノベーション→数値化→マニュアル化』のサイクルは、休むことなく続けられなければならない。」 (140頁)

「価値とは、顧客が店を出るときに感じるものである。」 

「顧客が何かを感じるとすれば、商品に対してではなく、お店や事業全体に対してである。事業を成功させるためには、この違いを理解しなければならない。」 (152頁)

ガーバー氏による3つのルール「イノベーション(革新)」「数値化」「マニュアル化」は、マクドナルドの誕生秘話そのものだ。マクドナルド兄弟は、レストランの25種類あったメニューを売れ筋の9種類に絞り込み、ファストフード店に「革新」した。レイ・クロックは、マクドナルド兄弟のオペレーション(業務)を「数値化」し、60秒以内に商品を提供する方法を「マニュアル化」し、アルバイトに権限移譲した。さらにクロックは、お客様の感じる「価値」を 「Q.S.C(品質・サービス・清潔さ)」と定義してマニュアル化することで世界中のマクドナルドを「標準化」した。

「飲食店だからマニュアル化できるのだろう。でも私のビジネスが違う。」 と僕は思っていた。整骨院ビジネスはそんな簡単じゃない。「何年も修行して治療は習得するのだ」と。しかし、誰かに仕事を任せるならメニューを絞らなければならない。林先生からは「新人が3カ月でできる治療メニューを作ってください」と言われた。「そんなの無理です」と言い続けた。

でも、マクドナルド兄弟は上位3割の売れ筋メニューだけを標準化した。この考え方は応用できた。日常頻度の高い治療メニューだけを、標準化することで新人のデビューも格段に早くなった。売れ筋メニューは、実はシンプルなものが多いこともマクドナルドと共通点だった。手技療法であっても、強弱や動きを「数値化」することによって「マニュアル化」できることも林先生は教えてくれた。

 

事業発展プログラムの7つのステップ

誰がどこで経営しても成功するような事業の試作モデルをつくりはじめればよいのである。

(中略) 試作モデルを作ることに成功すれば、あなたの事業はとても魅力的なものになっているはずなのだ。 事業の完成度をここまで高めるものが「事業発展プログラム」である。 プログラムは七つのステップから構成される。 (143頁)

ガーバー氏の「事業発展プログラム」の考え方は、林先生が教える「フランチャイズシステム」そのものだった。経営者が実現したい目標である「経営理念」を、「経営方針」である「Q.S.C」に落とし込み、マニュアル化する。それを組織戦略や人材戦略として現場に浸透させる。結果として顧客満足度が標準化されて、誰でも売上・利益を確実に獲得するシステムができる。

林先生はそれを「トータルマネジメントシステム」と呼んでいた。仕組みは自分の都合で「いいとこどり」ではうまく行かない。「仕組みはトータルでなければいけません!」と言われていた。

 

仕事の役割分担を明確にするー組織図を作る

「いざ経営者が組織図を作ろうとすれば、従業員は否定的な反応を見せることが多い。」(158頁)

「私はめげず 彼の会社の組織図をつくりあげた。なぜなら、組織図を完成させることがスモールビジネスにとって非常に有益であることを知っていたからである。」 (158頁)

*林先生から教わったマクドナルド流の店舗組織図

ガーバー氏の主張は鋭い。組織図の作成には、従業員の序列や責任を決めないといけない。だから従業員は拒否反応を示す。仕組みの導入に関しても現場の拒否反応は激しい。

ガーバー氏の言うように、実際はスモールビジネスの段階から組織と仕組みがあった方が本当は楽なのだ。僕はそれを痛感した。下手に従業員が多い方が仕組み導入は苦労する。

林先生も仕組みより先に組織図を作るように言われた。当時、僕の小さな会社でも正社員中心で年功序列型の組織だった。その実際は、横並びの社員によるサービス残業と長時間労働で成り立っていた。だから組織図を作ることは非常に苦労した。

 

人材戦略働く人がやりがいを感じる仕組みを作る

「『思い通りに従業員に働いてもらうには、どうすればよいのか?』これはスモールビジネスの経営者からよく受ける質問である。 私はいつも『それは無理だね。従業員思い通りに働かせるなんてできっこないよ。まずは【働く】ほうが、自分のためになるんだと思える仕組みを作ることだね。【成果を上げる】ことにやりがいを感じるような仕組みをね』と答えている。」 (188頁)

「事業システム化するということは、非人間的なものではなく、人間性を重視したものであるということが理解できただろうか?」 (199頁)

「従業員に思い通りに働いてほしいのなら、まずその環境を準備しなければならない。また従業員を引きとめるためにも、人間性の理解が必要なのである。」(199頁)

ガーバー氏は、従業員がやりがいを感じる仕組みと環境が必要だと説く。林先生から教えてもらったマクドナルド流の人財育成は、まさにその仕組みそのものだった。従業員ひとり一人が「自分のためになると思える仕組み」とは、「何をすれば、自分のランク(職位)や給与(時給)がアップするのか」が明確にわかる仕組みだった。

人はそれぞれモチベーションを感じるものは違う。お金が欲しい人もいれば、評価されて昇格することに喜びを感じる人もいる。人間学に基づいたマクドナルドの仕組みでは、「ランク(職位)」や「給与(待遇)」「仕事の内容(職務)」すべてが、労使双方に明確になるように作られていた。

 

エピローグ ―マイケル・E・ガーバーのメッセージ(あとがきより)

「スモールビジネスは、あなたにとって道場である。」 (238頁)

「世界を変え、人生を変えるためには、手始めにスモールビジネスという小さな自分だけの内部の世界をつくらなければならない。」 (240頁)

「『イノベーション→数値化→マニュアル化』のプロセスを継続することにより、小さな世界を成長させることが出来るのだ。」 (240頁)

「今こそが実践のときである。」  (241頁)

「実践しないかぎり、本当に理解することはできないのである。」 (241頁)

まとめ ~本書からの学びを実践するために

「はじめの一歩を踏み出そう」を読んで僕が驚いたのは、起業後の5年間はガーバー氏の指摘する通りの失敗の道を歩んでいたことだ。幸運にもその後、林先生と出会い、「マクドナルド流の仕組み」を知ることができた。大きな成功はなかったが、何とか28年間生き延びることができた。

*2003年にもらった「はじめの一歩を踏み出そう」初版本

本書巻末の「訳者あとがき」には、原田喜浩氏の本質を突いたことばが書かれている。

「本書で最も重要なメッセージは、『経営者が現場にいなくても収益の上がる仕組みを作ろう』である。言い換えれば、『個人の才能や経験に依存しない事業を作ろう』ということであり、その結果、事業を売却することが可能になる。」 (246頁)

事業の売却はともかく、「経営者が現場にいなくても収益が上がる」や「個人の才能に依存しない事業」は、マクドナルドの仕組みを熟知した林先生から教わった仕組みそのものと言っても過言ではない。実際に仕組みが動き出すと、パートアルバイトのスタッフだけの時間帯でも店は回るようになるし、特別な才能がない人でも、トレーニングによって店を運営できるようになった。(つい口出ししてしまう職人型経営者の僕などは、現場にいない方が逆にうまく回っている。)

問題は、自分のビジネスでどのように仕組みを作るかである。「うちは飲食業ではないから・・」「うちの仕事は複雑で、人には任せられない」と誰もが思う。僕も同じだった。

しかし、ガーバー氏の言う通り、実践しないかぎり、前に進むことはできない。そこで、林先生に教わって僕が実践してきたことで、本書と共通することをまとめてみた。

ガーバー氏の言うように、スモールビジネスのころから成熟期の企業(マクドナルド)のような方法で経営すれば、成功確率はずっと高くなると確信する。これからチャレンジする方の参考になればと思う。

 

レイ・クロックの考え方で、お客様の「価値」を決める

レイ・クロックの考え方で、お客様の「価値」を決めてみる。レイ・クロックは、お客様の感じる「価値」を 「Q.S.C(品質・サービス・清潔さ)」を経営方針として数値化し、マニュアル化した。業種業態に関係なく、自分の顧客満足を定義してみるとマニュアル化しやすくなる。

 

数値化してマニュアル化するためのポイント

「お客様の価値を高めよう!」と従業員に教えても、具体的に何をすればいいのかわからない。マクドナルドでは、「Q.S.C」を実現するための具体的な行動がマニュアル化されている。

林先生からは「Q.S.C」の各項目を導き出すキーワードを教わった。

「クオリティ」は、お客様が「五感」で感じる「品質」をプロセスで導き出す。「サービス」は、お客様の感じる「時間」と「印象」で決まる。「清潔さ」は、日々の「メンテナンス」と「基準」で決まる。

マクドナルドは「60秒」以内に商品を提供することを標準化した。ハンバーガーの材料を調理する温度や時間も数値化した。同じように自社のお客様について以下を経営者自身が定義する。

・お客様の感じる「品質」とはなにか?

・お客様が「サービス」の時に感じる「時間の便利さ」「印象」とは?

・お客様は何に対して「清潔さ」を感じるのか?

皆で話し合うのではなく、まず社長が決めることが大切と林先生は言われた。なぜなら「社長力=商品」なのだからと。

 

人材戦略―働く人がやりがいを感じる仕組みを作る

マクドナルドでは、従業員ひとり一人が「何をすれば、自分のランク(職位)や給与(時給)がアップするのか」が明確にわかるようになっている。下記は林先生に教わった「キャリアパスプラン(職能階級制度)」の簡略図である。

*キャリアパスプラン:「ランク(職位)」「仕事(職務)」「給与(待遇)」が見てわかるようになっている。労使双方に共通した昇給・昇格の目安があることで、コミュニケーションギャップも少なくなる。超短期に人が成長するようになる。

 

仕事の役割分担を明確にするー組織図を作る

「Q.S.C+Ⅴ」で抽出した現場業務を難易度別に分類してみる。マクドナルドでは、すべての現場業務を、パートアルバイトのランクに応じて任せる仕組みになっている。林先生は、下記のように図式化した「キャリアパスプラン」を日本マクドナルドに導入された。

「現場業務」は、業種によって変わるが、全体図はそのまま使用できる仕組みになっている。キャリアパスプランは、そのまま「店舗組織図」に連動する。

はじめは上位の「Aクルー」や「トレーナー」はいないが、徐々に育成していくことで、強いチームが形成される。

ガーバー氏と同じく林先生は、たった数店舗しかない僕の整骨院に会社組織図を作らせた。組織図にある部署ごとの名前は、 ほとんど僕とアシスタントの川村さんの名前しか入らなかった。それでも、組織図を作ることによって、何年か経つとその組織図に色んな人の名前が入るようになっていった。

 

 

経営者が現場にいなくても収益の上がる仕組みを作る

経営者が現場から離れるためには、店舗を任せる仕組みが必要になる。マクドナルドでは店長(マネジャー)のマネジメント業務も難易度別に分類されいてる。

現場のマネジャーが、人の採用から育成、顧客満足の維持向上、マーケティング活動、売上の増大、利益の確保までできるようになれば、経営者は現場を任せて、離れることができる。

ストアマネジャーが誕生すれば、経営者は現場を離れることはできるが、常に経営指導は必要となる。経営指導するスーパーバイザーが育成できた段階で、経営者は完全に現場を離れて経営を任せることができる。

「レイ・クロックは最高に収益の上がる仕組みをつくろうとした。」(103頁)

ガーバー氏が指摘するように、なぜマクドナルドの店だけが高収益なのだろうか。マクドナルドの店舗マネジャーは、「店舗運営責任者」として、部下の人材確保(スタッフィング)から教育訓練(トレーニング)を行ない、「Q.S.C」による「売上の向上」と「コスト削減」に常にチャレンジする企業風土が仕組みになっている。「スモールビジネスは、大企業に勝つために『業績を上げる』ことのできる人財を育てる仕組みを作らなければいけません」と林先生は言われていた。

*林俊範先生が体系化した「利益のピラミッド経営法」

 

時代が変わっても、仕組みが変化することはない

ガーバー氏の本は20年以上も前に書かれたものであるが、いまだに売れ続けている。林先生に教わった仕組みも、レイ・クロックが存命していた40年以上前のものになる。もしかしたら、今の時代に合わないのではと感じるかもしれない。

林先生は言われていた「どんなに時代が変わろうとも、人間が変わらないように、ピープルビジネスの仕組みも変わることはありません」と。

僕も仕組みの実践を20年近く試行錯誤しているが、新しい発見ばかりで、常に新鮮さを感じている(未だにできないことばかりだが・・)。センスある起業家、経営者であれば、取組み次第で大きな成功を実現できると確信している。

 中園 徹