日本のサービス業を欧米並みの生産性にする方法

とにかくヨーロッパの働き方は効率がいい。日本の1時間当りの労働生産性は約4,300円。それに対してフランスは6,800円、オランダに至っては約7,000円だ(2014年)。日本の中小企業は3,000円を割るところも多い。実質的な差は2倍以上あるのではないだろうか。

なぜ、そんなにヨーロッパの生産性は高いのか。そのなぞは現場を見るとわかる。今回私はオランダとフランスに滞在し、サービス業を観察して現場の生産性の高さに驚いた。

まず飲食店の店員の数が少ない。だから、注文したい時にすぐに頼むことはできない。しかし、よく見るとお客も焦って注文はしない。店員が近くに来た時に注文している。皆ゆったりと食事している。オランダもフランスも共通だった。

デパートのような小売業も生産性は高い。とにかく店員が見当たらない。しかし、それでもお客は欲しいものを手にとって買っていく。高級品でも日本のように手厚い接客はない。また、店員からお客に近づいてくることもない。

美術館でも係員は少ない。日本のように各部屋に係員が配置されていることはない。貴重な展示物であっても、さほど厳重な警備はない。作品に近づいて見ることができるだけでなく写真撮りもOKだ。人員数は日本の3分の1ぐらいの印象である。

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ルーブル美術館

驚いたのは駅である。駅員がいないどころか改札もないのだ。しかも、アナウンスも最低限しかされず実に静かだ。オランダからユーロスターという新幹線に乗ってフランスに行ったのだが、どちらも同じだった。パリの駅にも改札がない。ただ、乗車に必要なことを示す案内板は整っている。

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どのサービス業も少ない人員で大丈夫なのだろうか。たとえば駅に改札がなければ、ズルしてキセル乗車が横行するのではないのか。現地の人に聞いてみると厳重にチェックはしないが、罰金のペナルティは大きいという。日本と違って、あくまでお客の自主性を重んじる風土もあるではないだろうか。

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改札のないパリの駅

たしかに欧州のサービスレベルは日本に比べて簡素だ。しかし日本並みの手厚いサービスは本当に必要なのだろうかとも思えてくる。日本は人員配置が多い分、生産性も低く長時間労働を生んでいる。ヨーロッパのサービスは簡素だが、人々はゆったりと豊かな生活をしているようにも見える。

どうすれば欧州並みの生産性を持たせることができるのだろうか。まず、お客にとって本当に必要なことだけを抽出して、まずやめるべきサービスや業務を決めることが必要になってくる。

ただ、下手にサービスを減らすと顧客満足を低下させ売上にも響くから怖い。何を基準にやめること、強化すべきことを決めたらいいのか。そこで役立つのが「Q.S.C+Ⅴ」という顧客満足の方程式である。

「Q.S.C+Ⅴ」とはマクドナルド創業者レイ・クロックが提唱した概念だ。顧客は「品質(QUALITY)」と「サービス(SERVICE)」、「清潔さ(CLEANLINESS)」の3つが揃うことで「価値(value)」を感じるという考え方である。

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この公式は飲食業に限らず全てのビジネスに応用することができる。公式を使い自社の顧客は何によって満足するかを定義すれば、自然と削るものと増やすものが見えてくる。

日本のおもてなしや手厚いサービスは確かにいい。しかし、労働生産性が低いことと、末端の労働者の長時間労働やサービス残業の上に成り立っていることも否めない。

欧州のサービスは日本よりシンプルだが、それが高い労働生産性を生んでいることは間違いない。その副産物として従業員は長期休暇の取れる豊かなライフスタイルと労働環境がある。店員さんのサービスも手厚くはないがフレンドリーで感じがいい。疲れが溜まっていないようにも見える。だから生産性も高いのかもしれない。

どうすれば日本のサービス業を欧州並みにすることができるのか。まず、顧客満足に必要なものを徹底的に定義すること。それと同時に従業員の労働時間を短くして、よく眠り元気に働くことのできる労働環境を提供することではないだろうか。

 中園 徹