店長とマネジャーの違いとは何か

店長とマネジャーの違いとは何だろうか。僕は自分の店を持ったあとも知らずにいた。「店長」は店舗の責任者。「マネジャー」は、部活や芸能人のマネジャーで「お世話をする人」ぐらいに思っていた。店長とマネジャーの違いを知らないことで、のちに大きな苦労することすら予想もできなかった。

整骨院を経営するようになって、自分が「院長(店長)」になった。肩書がついて何となく嬉しかった。次第に店を増やして「院長」を育てる立場になった。

整骨院の院長は、国家資格があり、治療経験がある程度あれば誰でもできると思っていた。「今度の新店舗は、君に院長をやってもらおうと思う」そう言うと、大抵の人は嬉しそうな顔をした。

新任院長の条件として、「院長」という肩書きと、院長として昇給して院長給与を与えることにした。今まで、多くの患者さんを治療していたのだから、新店でも患者さんを増やして売上を上げてくれるだろうと期待した。

ところが、いざやってみると思ったように売上が伸びない。患者さんが増えない。おまけに、会社が採用してあげた受付スタッフや、新人施術者が次々と辞めていく。何か月も赤字が続いている。こんなはずではなかった。彼には院長として実力はなかったのかと後悔しても遅かった。すでに昇給している新院長には、何となく焦る感じも見られない。何がいけなったのか、まったくわからなかった。

試行錯誤するうちに、林俊範先生の勉強会に出るようになって、自分が大きな勘違いをしていることに気づいた。その発端が「店長」としての役割について知った時だった。

マクドナルド流の「店長」のとらえ方は、非常に明確だった。林先生のテキストには、「店長」は「店舗運営責任者」と書いてある。店を回しながらも、予算を達成するために、人財の育成から、経費コントロール、売上の増大などを担う。僕の漠然と捉えていた「店長」とはまったく違っていた。しまった!と思った。

林先生は「店長の育成」について次のように書いている。(「人事評価システムの作り方」より)

「人の能力を引き出す、すなわちロードマップのように店長への道を作る仕組みを考えて基本業務を明確にする。つまり、『自分は次の職位へ昇格するために、いま何をすれば良いかを知ることができるようにする。』これがないと一人ひとりの生産性をあげ。一人ひとりのやる気を引き出すことができない。ほとんどの企業の場合、ここが不明確であるために、生産性のない仕事を、現場も本部も一緒になっていることが多い。現場の社員は、自分がいま置かれている立場と職務がわからないまま毎日をすごしている。」

なるほど。僕は経営者として、院長(店長)を任命しただけで、あとは丸投げ。業務として何をすればいいのか院長本人もわからなかったので、結果が出なかったのだと反省した。

林先生の言葉は続く。

「『自分はどのような仕事を会社から求められ、次の目標は、どういう仕事なのか?』また本部は、明確な仕事を与えないで、本人がもともと持っている能力や技術だけで仕事をさせ、『あいつはダメだ、あいつは良い』といって、相互のギャップを深めているだけである。こうしたことを十分認識してかからなければならない。」

まさにその通りで、僕は経験や技量だけで院長を任せて、結果がでなければ「あいつのせいだ」と責任転嫁してしまい、結局退職していった者も少なくなかった。では、どうすればいいのか。

林先生は、解決策として業務の洗い出しを勧めていた。

「何もむずかしく考えなくてもよい。会社として、このランクの人にこういう仕事をしてもらいたいということを、各ランク別に抽出し調整することである。この場合、現場レベルの人も参加させ、KJ法的やり方で、とにかくこの現場(店舗)のオペレーション、マネージメント業務は、どういう内容があるのかを洗い出して、ランク別に整理することである。」*KJ法:調査した情報やデータを抽出して整理する手法

林先生が店長業務を洗い出し、図式化したものが「キャリアパスプラン」だった。

マクドナルド流のマネジャー育成には、基本業務の熟達度に応じてランクがあることも知った。「真の店長」は「ストアマネジャー」であり、そこまでに3段階の「アシスタントマネジャー(店長代理)」がある。

林先生は、2段階目の「2ndアシスタントマネジャー」でも、「店長」にチャレンジすることができるという。「マネジャー」としては「半人前」でも「店長」になれるのだ。でも、実力がつくまでは、ランクと待遇はアシスタントマネージャーなのだ。僕も「このやり方でやればよかった」と後悔した。

林先生に学んでわかったこと。「店長」とは、単なる対外的な「肩書」であること。一方の「マネジャー」は、店舗運営責任者として「職務遂行責任」を果たして結果を出すことができる人を指す。この2つには、大きな違いがあると分かった。

ちなみに、あとで知ったことだが、「マネジャー」の語源は、ラテン語で「荒馬を乗りこなす」。つまり、難しいものをコントロールする意味があるという。なるほど、店という資産や、スタッフを上手に扱って、売上や利益をコントロールするのだなと思った。職人としてのベテランが、必ずしも「店長」に向くとは限らないのだ。

失敗から得た学びは、単に経験年数や専門知識で「店長」を任命してはいけないこと。ランク(職位)や待遇(給与)は、マネジャーとして結果を出せるようになってから与えることだった。

林先生から学んだ、ピープルビジネスのやり方が必ずしも正解だとは断言できない。しかし、少なくとも、僕が我流でやっていた「経験・勘・度胸」で店長を任命するやり方よりは、いいと断言できる。何よりも「店長」になった人が、苦しまずに、目標とやりがいをもって仕事に取り組めるようになることが一番の違いであり、大きなメリットだと思う。

教 訓:「店長」は管理者としての対外的な肩書き。「マネジャー」は職務遂行責任を果たす「店舗運営責任者」。

 中園 徹