起業して直面する問題をどう切り抜けるか

起業後に直面する問題とは何か。それは手伝ってくれる人がいないことである。

経営の問題には「人・モノ・金」がある。3つの中で人だけは心のある生き物である。いくら他から与えられても思い通りにはならない。だから難しい。

起業した人がどんなに美味しい料理を作れても、売れる商品を持っていても、手伝ってくれる人がいなければビジネスは成り立たない。私は起業するまで、そのことに気付かず痛い目にあった。

経営者にとって、手伝ってくれる人が急に人が休むこと、そして辞められることがどれぐらい辛いことか。勤めている時は、そのありがたみがわからなかった。

私が整骨院の修行時代、勤めていた店舗にⅠさんという女性の受付パートさんがおられた。彼女は5人ぐらいいるパートさんたちのリーダー的存在だった。

パートさんは皆さん主婦であり、小学生ぐらいのお子さんがいる。シフト制で各人出勤するのだが、お子さんの病気などで急に休まなければならない時がある。そんな時はⅠさんが代わりの人を手配してくれるのだった。

当時の私は、そのありがたさがわからず当たり前のように思っていた。しかし、自分で起業して、急に受付スタッフに休まれることがどんなに大変なことかを思い知らされた。Ⅰさんがいかにありがたい存在だったかを痛感させられた。

「じゃあ、昔と同じようにすればいいじゃないか」と思うかもしれない。しかし、知っていることと、できることは違う。代役を立てればいいとはわかっていても、その状態を再現することは至難の業だ。

なぜ、以前の職場では代役制度ができたのか? 思い出してみると、経営者である師匠は、Ⅰさんの重要性を認識してか、年始などにはお礼の「心付け」を渡していた。師匠の人を大切にする人柄と心配りで自然と仕組みになっていたのだ。

起業した私には、師匠のような人柄も心配りもなかった。結果として6年間、人の欠勤や離職で右往左往することになった。転機が訪れたのはマクドナルドの仕組みに出会ってからだ。

私が教わったマクドナルドのシフト制でも、スタッフが急に休まなければならない時は、自分で代役を手配するようになっていた。複数スタッフによる変動シフト制を組むことで欠勤はもちろん、離職があっても大混乱に陥ることはない。

スタッフに急に休まれてもいい仕組みを作れば、急に辞められても何とかなるものだ。また、安心して休むことのできる職場は、働きやすさと人財の定着を生む。その方法を知っただけで、私も随分と楽になった。

起業して直面する問題を切り抜けるには、まず人が休んでいい仕組みを作ること。但し、それだけでは足りない。経営者自身がスタッフたちの信頼と協力を得るための人間性と心配りに努力しなければならないことを教えられた。

マクドナルド創業者のレイ・クロックは常々言った「ビジネスは一人ではできない」と。だからこそ仕組み作りに心血を注いだのだろう。

「人が休んでもいい仕組みを作る」

中園 徹