起業家が努力では克服できない問題点

私は1994年、32歳の時に起業した。脱サラして、整骨院の開業を夢見て8年間勉強した。

店を回すだけの知識と技術に関しては一通りマスターしたつもりだった。自信満々で、どんな問題があっても解決できると確信していた。

開業に際しては、1日に100人の患者さんが来る店舗を目指した。これは当時の業界内では、繁盛店のひとつの目安になっていた。

必死になって取組んだ結果、1年と2ヶ月で100名を達成できた。では起業は成功と言える状態であったのか?

答えは「NO」である。というより予想もしなかった問題が山積みだった。

大きな問題としては4つある。

1.人手不足。求人しても集まらない

2.顧客サービスや品質が安定しない

3.スタッフの育成に時間がかかる

4.スタッフを昇給させると利益が出ない

まず人手不足。人が入っては辞めていく。募集のために求人雑誌に毎月3~5万円を支払い続けた。まるで会費制のようだ。5万円を稼ぐのは大変苦労なのに、求人費は湯水のごとく出て行く。

私自身は徒弟制度、あるいは体育会系の教育しか受けていない。自分が受けた方法で人を育てると次々と辞めていく。離職を防ぐためにどうすればいいのか。反転して優しくすれば、今度はいつまでも仕事ができない。全くなす術がなかった。

また、何度教えても同じ間違いを繰り返すスタッフにも苦労した。人によって仕事の質に差があることはクレームに直結する。どうすれば、ミスをなくすことができるのか。今まで自分の仕事の質を高めることしか考えていなかったことを反省した。

スタッフが一人前になるのに時間が掛かることも問題だ。自分の時は徒弟制度だったので、3年ぐらいでやっと一人前になるのが普通だった。しかし、ちゃんとした給与を支払うのであれば、そんな余裕はない。

私が起業した時には、以前の職場からベテランの兄弟子も手伝いに来てくれた。彼は結婚や出産も控えていたこともあり、それなりの給与を支払ってあげなければいけない。また、今後長く勤めてもらうためには昇給も必要だ。

でも、小さな店で売上が限られている中で、大企業並みに年々昇給させていいのだろうか。このままでは利益が出なくなっていくのではという恐怖心が襲ってきた。

開業して5年間、これらの問題を解決しようと必死にもがいてきた。経営者の書いた本も読みあさった。しかし、具体的な解決には至らなかった。

なぜ、このような状態になったのか。2つのことに気付いた。

1つ目:問題は全て想定外で、起業前に全く準備していなかったこと。

2つ目:これらは全て「人の問題」であること。

ある高名なコンサルタントが言っていた。「人生における悩みの80%以上は人の問題」と。まさしく、その通りだと思った。

では、これらの問題は経営の経験年数が解決してくれるのだろうか。業界の成功者と思われる先輩方に相談してみたが、具体的な解決法は誰も持っていなかった。異業種の経営者にも相談してみたが結果は同じだった。

繁盛している経営者も、実は同じ問題で悩んでいる人が少なくなかった。むしろ、仕様がない問題とあきらめているようにも思えた。

でも、世の中には創意工夫で、すばらしい経営を実践している経営者もいる。しかし、それは優れた人間性を持った方の話。あるいは、自ら命を絶つほどの苦労と窮地を脱した結果生まれた方法などである。どう考えても凡人の私に実践できるものではなかった。

そこで、一つの結論に達した。これは努力と根性で克服できる問題ではないということ。

しかし、世の中には必ず解決策はあるだろうと思った。

「俺はたった2店舗で右往左往している。5年努力してみたが問題は解決しなかった。でも、世の中には100店、1000店と発展しているところもある。」

「業種は違っても必ず同じ問題は起きているだろう。違いは何か。そうだ仕組みだ!きっと問題を解決する仕組みを持っているのだ!」そう確信した。

ここで得た結論、「人の問題は起業家の創意工夫では解決できない」だった。

それが仕組みを探し求めるきっかけとなった。

「人の問題は努力だけでは解決できない」

 中園 徹