ピープルビジネスにおける短時間正社員制度

2020年11月25日、大阪商工会議所が主催する市民セミナーで、弊社の介護事業部責任者・栗山綾が登壇する機会を与えられた。

2019年に、大阪商工会議所主催の「大阪サクヤヒメ表彰」に栗山が女性リーダーとしてエントリーしたことがきっかけだった。厳重な感染対策がされた会場での開催となった(参照:開催カリキュラム内容)。

短時間正社員制度導入のキッカケ

演題は「短時間正社員制度導入のメリットと活用事例」となっている。 短時間正社員制度や女性の活躍と言うと、時流に乗った制度のような感じがするかもしれない。しかし、我々が実践している短時間正社員制度は、20年前に林俊範先生から教えてもらった仕組みにほかならない。それでも、講演の冒頭で大阪労働局の方が解説された「短時間正社員制度」と、我々が林先生から教わった仕組みはほぼ同じだと感じた。

林先生は日本マクドナルド創業期の仕組みを作られた元統括スーパーバイザーで、 マクドナルドで体得されたピープルビジネスの仕組みを体系化し、20年以上中小企業の方々に教えられていた。

1994年に私自身は脱サラして個人で整骨院を開業した。雇用に関しては全く知識ゼロの状態で スタートしたため、相次いでの離職や雇用トラブルが頻発し非常に悩んでいた。受付のパート・アルバイト一人まともに雇うことができないことに悩み、2001年に林先生の所に飛び込んだことがきっかけだった。

短時間正社員制度は20年前に習った仕組み

今になってわかることだが、林先生の仕組みは、現在で言う短時間正社員制度や同一労働・同一賃金の仕組みを全て網羅していた。当時、雇用に関して無知蒙昧の私は、それが世間の一般的な常識だろうと思っていた。林先生は「日本の雇用は20年遅れている」と言われていたが、現在の欧米の雇用事情と日本を比べると確かにそうだなと感じる。

林先生から教えてもらった短時間正社員制度の仕組みは、キャリアパスプランというものがベースとなっている。 何をすれば昇給・昇格が与えられるかという基準が、パート・アルバイトから正社員まで明確になっている。

短時間正社員と非正規社員の違い 

仕組みにおいて、正社員と非正規労働者と呼ばれるパート・アルバイトの違いは、職務遂行責任に表されている。

パート・アルバイトの人たちは、現場業務に従事することが基本となる。正社員はマネジャーとして、現場で働くパート・アルバイトの募集・面接・採用から 、トレーニングと呼ばれる実務訓練、勤務評価から稼働計画作成までを行う。マクドナルドの現場でも、正社員とパート・アルバイトが入り混じって仕事をしているが、業務遂行責任は全て違っていて、同一労働・同一賃金の仕組みになっている。

開業時の私は 、社員とパートさんはなぜ待遇が違うのか、その理由が全くわからなかったが、キャリアパスプランを学ぶことで全て腑に落ちた。また、同じパートさんでも職務遂行の基準に応じて時給が支払われることを 説明できるようになったため随分と気が楽になったことを思い出す。

フルタイムの正社員と短時間正社員の違い 

巷で言われる短時間正社員制度がどのようなことを指すのか、私にはあまりわからない。林先生から習った正社員制度のやり方というのは、単純に「正社員であっても労働時間が伸縮自在にできますよ」ということだった。

正社員が週40時間勤務だとしても、子育て主婦などの正社員は希望に応じて、社会保険適用の週30時間から35時間前後の勤務も選ぶことができる。もちろん、基本給も40時間分の35時間になることの承諾が前提となる。結果としてうちでは、週4日勤務の女性正社員が増えることになった。

経営者として私が、最初から女性の活躍や短時間正社員制度を導入しようと思ったわけではない。 林先生から教えてもらったキャリアパスプランをそのまま実行した結果、もたらされた形であることを付け加えたい。

キャリアパスプランにおける短時間正社員のメリット

実際に短時間正社員制度を導入するとどのようなメリットがあったのか、いくつか列記してみたい。下記は栗山が講演で述べた内容である。

① 女性が活躍できる会社の実現

② 高質人財の離職防止

③ 慢性的人材不足の解消

➃ 収益性アップ

⑤ キャリアアップのためのモチベーション

上記の5項目は、キャリアパスプランにおける短時間正社員制度の導入メリットとなるが、詳細は栗山の講演内容を参考にしていただければと思う 。キャリアパスプランのユニークな点は、パート・アルバイトから正社員になることもできれば、フルタイムの正社員が短時間正社員になることもできる点にある。さらに社員の仕事がしんどいと感じた時は、パート・アルバイトに戻ることもできるという柔軟性もある。

今回、登壇してくれた栗山綾も、もとは整骨院の受付パート・アルバイトだった。その彼女がキャリアパスプランで、正社員であるマネジャーにチャレンジして、今はスーパーバイザーとして会社を大いに助けてくれている。

ただ、私も経営者として短時間正社員制度を素直に実行できたわけではない。 労働時間を短くすれば、それだけ売上も縮小してしまうのではないかという恐怖心がいつもあった。 いくら林先生から説得されてもなかなか実行に移す勇気がなかった。

ところが、2008年に淀川労働基準監督署から長時間労働における是正勧告を受けたことが実行のきっかけとなった。強制的に残業を撤廃し、長期的な結果として短時間正社員制度に踏み切ることができたのが実情である。

 

今だからこそ言えるか、短時間正社員制度導入の一番のメリットは、離職の防止と優れた人材の発掘にあるのではないかと思う。短時間正社員制度と言うと、労働時間が短くなることで給与が下がってしまうため、なり手がいない、敬遠されるのではないかという誤解がある。私もそう思っていたが、実際にはフルタイムは無理だが短時間だったら正社員として頑張ってもいいと言う、優秀な女性が何人も現れてくれた。きっと世の中にも多くいるのではないだろうか。

キャリアパスプランを実行して分かったことであるが、労働時間が短い人は、仕事の生産性が非常に高い。段取り上手で、フルタイム並みの成果を出すことも珍しくない。マネジャーが短時間だと現場も自然と生産的になり、結果として人件費率は下がるので高収益にもなる。

短時間正社員制度の導入の手順

では、どのように短時間正社員制度を導入すれば良いのか。一般的な短時間正社員制度ではなく、林先生の仕組みであれば、単純にキャリアパスプランを導入するだけでいい。

そのために必要なことは、現場の仕事を基本業務としてマニュアル化し、キャリアパスプランに入れ込むだけでいい(下記の図にある赤文字の部分)。あとは自社としての時給を決めるだけで、店舗ビジネスであればキャリアパスプランの完成となる。

 

繰り返しになるが、私が経営者として最初から「女性の活躍」や「短時間正社員制度」を導入しようと思ったわけではない。もちろん崇高な理念があったわけでもない。ただ人の雇用に困り果てた挙句、 林先生から教えてもらったキャリアパスプランを、藁にもすがる思いで実行しただけに過ぎない。私でも出来るのだから、普通の経営者なら誰でもできるに違いない。

林先生から教えてもらったピープルビジネスの仕組みには、マクドナルド創業者レイ・クロックの「チャンスはあなた次第!(UP TO YOU!)」という考え方が入っている。

正社員やパート・アルバイトを問わず、努力次第で誰にでもチャンスが与えられる。つまり、短時間しか働くことができない人が、チャンスを失ったり、不利益を受けたりすることのない仕組みになっている。だから、自然と女性活躍が進むのかもしれない。

今、新型コロナ感染拡大で非正規労働者が職場を失っているというニュースが入ってくる。 本当にもったいないことだと思う。スモールビジネスや中小企業が、キャリアパスプランを導入し、多くの非正規労働者と呼ばれる優秀な人たちにチャンスが与えられることを願いたい。

ピープル・ビジネス・スクール 中園 徹