社員の給与をどうすれば上げられるのか

最近「賃上げ」という言葉をよく聞くようになった。政府に言われなくても、ほとんどの真面目な経営者は、社員の給料を上げてあげたいと思っているのではないだろうか。

1994年に僕が独立開業したときは、社員の給料をどうやって上げてあげればいいのか本当に悩んだ。 まだ個人事業で社会保険も無い時だったが、固定給で働くスタッフも増え、家庭を持つ者も出てきた。どうすればこの先、社員が安心して生活できるだけの給与を払うことができるのか全くわからなかった。

大阪梅田の大きな書店に行って、社員の昇給について調べてみた。当時の雇用関連の本はほとんど年功序列だった。いくら経営に無知な僕でも、勤続年数に応じて社員の給与を上げていけば、いつか限界がくることぐらいはわかった。

当時の整骨院経営では、ひとり一人が施術者として稼いでくれる。ただ、施術の経験年数に応じて、一日に治療する患者さんの数が年々増えていくわけではない。一人当たりの上限は、もうすでに限界に近づいていた。この先、どうやって社員の給料を上げていくのか、全く答えが見つからなかった。そんな時、林俊範先生に出会った。

日本マクドナルドの仕組みを作られた林先生なら、社員の賃金の上げ方が分かると思った。考えてみれば、全国にあるマクドナルドの店長は、良い給料もらっているはずだ。うちと何が違うのだろう? 興味が湧いた。

まず林先生の言葉に驚いた。

「一流企業にまけない人事評価制度とは何か。『小さい会社だから、高い給与が出せない。』『大きな会社だから、高い給与が出せる。という考え方。これは大きな間違いである。人事評価というのは、一人ひとりの評価である。一人ひとりの運営能力に依存しているのである。小さな会社でも高い給与を出せる仕組みを作るということは、仕事ができる人がたくさんのお金を取る仕組みを作る、ということなのである。」

そうか。大企業だから社員の給料が上げられるのではなく、小さな会社でも高い給与を出すことができるのか。その言葉に少し勇気が出た。まずそこで目にしたのが正社員のキャリアパスプランだった。

林先生の人事評価制度テキストには次のように書いてある。

「人事評価制度の生死を握る鍵はキャリアパスプランである。キャリアパスプランとは、個々の能力を正しくつかみ、その結果能力による公平な処遇(昇進・昇格・人事配置・給与・賞与)をするという仕組みであり、すなわち、チャンスは平等、公平な人の扱いをするということである。」

キャリアパスプランを見て分かった。今まで僕は、職人として働く人の給与をいかに上げるべきかと考えていた。しかし、マクドナルドは職人の育成ではなく、マネジャーを育成していた。そこが違いだった。

ひとり一人が、手作業で稼ぐのであれば、いずれ限界を迎える。しかしチームを作って、部下に稼ぐことを教えれば店全体で稼ぐことができる。つまり、マネジャーである店長は、店舗であるチームを成長させるから給与が上がるのだ。考えれば全く当たり前のことだが、僕にとっては目からウロコだった。

マクドナルドはマニュアル主義と批判を受けることがよくある。しかし、マクドナルド創業者レイクロックがしたのは、正しいプロセスを全てマニュアル化していたことだった。 驚いたことに、美味しいハンバーガーやフライドポテトを作るように、店長が売上・利益を上げる方法もプロセス化されていた。 それを林先生が図式化したものが、利益のピラミッド経営法だった。

利益のピラミッド経営法とは「売上の向上とコストの削減を同時に実現すること」と書いてある。ピラミッドの6階層が、マネジャー自身の売上・利益獲得プロセスになっている。

・プロフィット:適正利益の確保

・セールスビルディング:売上の増大

・マーケティング:地域への販売促進活動

・「Q.S.C+V」:顧客満足度の向上

・トレーニング:部下の教育訓練

・スタッフィング:適正人数の確保

学びを深めていくと、マネジャーは、無駄なコストを徹底的に排除し、売上を最大化することが業務遂行責任であり、各階層がキャリアパスプランと連動して昇給につながる仕組みだと理解できた。

利益のピラミッドの底辺にある「スタッフィング」は人材確保だ。多くの中小企業が人材不足に悩み、求人費用に多大な費用をかけている。しかし、ピープルビジネスでは、店長自らがお金をかけずに、自分の部下となるパートアルバイトを採用することが仕事になっている。求人費用をかけずに人材採用し、短期で稼ぐ人財に育成することができれば、店長の給与一人分ぐらいを上げても何の問題もないということもわかった。

スモールビジネス、中小零細企業が、どうすれば社員の給与を上げられるのか。それは、社員が自営業者と同じく、稼ぐことを仕事にしてもらえればいいのだと気づいた。

実際に社員キャリアパスプランを実践すると、ありがたいことに、かつて整骨院で受付をしていた女性パートさんが、子育てを終えて正社員となり、デイサービスで施設長(マネジャー)として本当に稼ぐようになった。比較的儲からないとされる介護事業の中でも、稼ぐプロセスが分かれば普通の人でも良い結果を出せるようになった。

年功序列に関係なく、林先生の言われるように、誰にでもチャンスが与えられ、売上・利益の獲得方法がトレーニングされれば、あらゆる業種でも社員の給与は上げられるのではないかと確信する。

教 訓:「社員の給料を上げるために、稼ぐプロセスを明確化しトレーニングする」

ピープル・ビジネス・スクール 中園 徹